訳 1997年6月25日
はじめに
バイオリンやチェロの弦は多くの種類があり、選択に困ることも多いものです。 ここでは、皆さんに役立つような弦の選び方についての質問に答えたいと思います。 弦は種類によって異なる特徴を持っており、楽器の音色が変わります。弦の特性は 音質や演奏しやすさや音量や応答性に影響を与えます。 また、種類の異なる弦に 交換することにより楽器の弱点が改善されることもあります。また個々の楽器の 特性から、その楽器に合う弦と合わない弦があります。ある楽器でいい音がする弦が 異なる楽器ではそうではないことがあります。演奏スタイルによっても弦を選びます。 クラシックを演奏する場合とジャズを演奏する場合で異なる弦を選ぶでしょう。
昔は、弦は羊の腸(ガット)でつくられていました。16世紀になって低く太い弦は
軽くするため銀線でまくようになりました。今日ではほとんどのガット弦がアルミ
か銀線でまかれています。20世紀初頭に、金属弦が登場し、耐久性と音程の安定性
が向上しました。特にバイオリンのE線はガットではすぐ切れてしまうため、スチール製
が一般的になりました。
今から約20年前にはナイロン芯の弦が登場しました。これはガット弦の音質を持ちながら、
音程が安定しています。現在ペルロンを芯にした弦がもっともよく使用されています。
ガット弦は、そのあたたかい音質と複雑な高調波が豊富なことからまだそれを多くの人に
好んで使用されています。バロック音楽を演奏する場合にはガット弦以外は考えられません。
しかし、ガット弦にはいくつかの問題点があります。まず第一はピッチが不安定であると
いうことです。張ってから1週間以上たっても音程が下がってしまいます。また、温度や
湿度にも影響されます。そして、ほかの種類の弦より高価です。したがって、初心者や
学生にガット弦をあえて薦めません。
スチール弦はガット弦の欠点を解決するため、主に初心者向けに導入されました。スチール弦はピッチが最初から安定であることが特長です。その音色はガット弦と異なり、単純でクリアで直接的で純粋で、高調波が乏しく、複雑さに欠けています。すべての弦にスチール弦を使用した場合はこれはさらに際だちます。スチール弦はカントリーまたはフォークおよびジャズなどのクラシック以外の弦楽器奏者に好まれています。また彼らは普通サイズでなくより低価格で小型の分数楽器を使用します。また、ベース奏者もスチール弦をよく使用します。
スチール弦の構造は多くの種類があり、チェリストはこの構造によく興味を示します。
それはスチールの芯(通常は螺旋状の細いスチールの束)を、アルミ、クロムスチール、銀、
タングステン、チタンなどで巻いたものです。技術の進歩により、より複雑な音色の弦が
作れるようになってきました。弦のブランドの説明の際、材質と音色について説明したいと
思います。
過去25年以上の間に多くの奏者がガット弦から、ナイロン弦に移行してきています。 もっともよく使用されているのは、ペルロンという材質です。これを使用した弦は、ガット弦 に近い音色を持っている上に、ピッチの安定性と速い応答性を持っています。調弦は少なくて よいし、ガット弦ならば安定するまで1週間以上かかるところを、1日ないし2日の弾き込み ですみます。またガット弦より品質が一定ですが、ガット弦のもつ音色の複雑さにはかない ません。このために、まだガット弦を使い続けている奏者もいます。現在、多くの種類の ナイロン弦が出回っており、各々が特有の音色を持っています。
ほとんどすべての弦が何種類かの太さ(ゲージ)で入手できます。例えば、
トマスティック・ドミナント(Thomastic Dominants)は、太め(stark (thick)),
普通(mittel(medium ミディアム))および細め(weich (thin))の3種類があり、ピラストロ・オイドクサ
(Pirastro Eudoxa)やオリーブ(Olive)、カプラン・ゴールデン・スパイラル
(Kaplan Golden Spiral)ガット弦は、ゲージ番号で示される何種類かの太さを入手できます。
普通(medium)の太さが通常使用されますが、一般的に太い弦は同じ音程を得るのにより強く
張る必要が生じるので、音量が増しますが、応答性は悪くなります。細い弦は、テンションが弱く
なるため、応答性は増しますが、音量は減り、音はやせ、ややあいまいな音になります。どの
ゲージが最適かは楽器によって異なります。ある楽器で弦を太くすると音量が出て、豊かな音に
なっても、ほかの楽器では太くしたら、音がつまってしまうこともあります。いろいろな弦を
試して決めることが必要です。
1.ガット弦
ピラストロ・オリーブ(Pirastro - Olive) この優秀な弦は輝かしい音色と豊富で複雑な
オーバートーンを持ち、しかも比較的応答性が良いという特長を持ちます。オリーブのE線(Olive E)
は金メッキされており、特に純粋で、クリアで、輝かしい音色がします。
ピラストロ・オイドクサ(Pirastro - Eudoxa) ナイロン弦が現われる前にはもっとも
ポピュラーな弦でした。オイドクサはあたたかくて柔らかい美しい音色を持ちます。応答性はオリーブや
ナイロン弦より若干遅めです。オールドの楽器には最適です。
ピラストロ・ゴールドラベル(Pirastro - Gold Label) ほかのピラストロのガット弦より安価
で中庸な音色です。ミディアム・ゲージのみ入手できます。その輝かしい音色からバイオリンのE線に
よく使われます。
カプラン・ゴールデン・スパイラル(Kaplan - Golden Spiral)およびゴールデン・スパイラル・ソロ
(Golden Spiral Solo) 値段は安いですが、ゴールドラベルと音色が似ていることが特長です。
ソロ・バージョンはより輝かしい音色がします。
トマスティック・ドミナント(Thomastic - Dominant) ペルロンコア弦のオリジナル・メーカー
です。ドミナント弦は輝かしい音色と応答性の良さが特長で、よく使われています。張ったばかりの時は、
金属的な音色が多少しますが、数日弾き込めば、それは消えます。
ピラストロ・トニカ(Pirastro - Tonica) この弦はまだ新しく登場したばかりですが、多くの
長所を持っています。ドミナントのように輝かしい音色を持ちながら、よりオーバートンに富み、立ち上
がりが柔らかです。張ったあとすぐに鳴りますし、寿命も長いということです。これはおすすめできると
思います。
ピラストロ・アリコーレ(Pirastro - Aricore) これはピラストロの最初のナイロン弦でした。
音色はオイドクサに似てあたたかく柔らかです。チェロのD, G, C線は暗めの音色を好むチェリストによく
使われています。
ピラストロ・シノクサ(Pirastro - Synoxa) その輝かしさはドミナントに似通っています。
チェロのG, C線のシルバーは、ヤーガー(Jarger)やラーセン(Larsen)のスチールのA および D線とよく
合います。
コレルリ・クリスタル(Corelli - Crystal) 明るい音色の楽器にとてもよく合います。
柔らかく、豊かな音色は明かるい楽器の荒さをカバーします。
コレルリ・アリアンス(Corelli - Alliance) この比較的高価な弦はケブラーをコアにしています。
その音色はコレルリ・クリスタル(Corelli Crystal)よりさらに輝かしく、豊かで複雑です。またこの弦は
ほかのナイロン弦より長寿命のように思われます。
トマスティック・スピロコア(Thomastic - Spirocore) 立ち上がりの良い輝かしい音色です。
特に輝かしさを求めるチェリストによく使われています。チェロのG と C のタングステン線は、特に
テンションが高く音量が出ます。シルバーのG と C 線はやや立ち上がりが柔らかくなり、ピチカートをよく使う
奏者によく使用されています。ピチカートを多用するベース奏者もスピロコアはよく使用されます。
トマスティック・ロペコーア(Thomastik - Ropecore) 暗く、柔らかな音色です。エレキ・バイオリン
に向いています。楽器によっては、重くなりすぎることがあります。
ピラストロ・クロムコア(Pirastro - Chromcor) 明るい音色で、安価なので学生用や分数楽器
によく使用されます。
ピラストロ・クロムコア・プラス(Pirastro - Chromcor Plus) チェロおよびビオラ用が入手できます。
通常のクロムコアより、より複雑な音色を持ちます。
ピラストロ・パーマネント(Pirastro - Permanent) 柔らかで美しい音色を持ちます。とくにガット弦と
よく合います。
ピラストロ・ピラニート(Pirastro - Piranito) 安価な点で学生用として薦めます。
ダダリオ・ヘリコーア(D'Addario - Helicore) これは、新しく
登場した弦ですが、良く使用されるようになってきています。柔らかい音色はスチール弦とは思えません。
チェロやバイオリンの G と C 線が特に好まれています。エレクトリック・バイオリンはこの弦がよく使用さ
れています。最近現われたヘリコーア・オーケストラ(Helicore Orchestra) バス弦は
いい評価を得ています。ダダリオから新しいベース用ヘリコーア弦が発表されました。それは
ハイブリッド(Hybrid), ピチカート(Pizzicato)
それに ソロ(Solo)です。ハイブリッド(Hybrid)は弓およびピチカートに対する応答性の
良さを望む奏者に向いています。ピチカート(Pizzicato)は、主にピチカートだけで演奏する場合に適しており、
ソロ(Solo)はソロを弾くときの高いピッチに合わせられるように設計されています。
ヤーガー(Jargar) 主にチェリストに長い間よく使われてきています。 G と C 線は銀巻線があり、
より明かるく輝かしい音色が得られます。ヤーガー弦はほかのスチール弦に比べて柔らかな音色が特長です。
ラーセン(Larsen) 比較的高価なこの弦は最近登場したばかりですが、純粋でクリアな音色を求める
チェリストによく使用されています。ラーセン・ソロ(Larsen "Solo Edition")弦は、より明かるく
輝かしい音色です。線はタングステン巻もあります。
プリム(Prim) 比較的安価な弦で、立ち上がりのよい明かるい音色は、フィドラーやチェリストに
使用されています。
スーパーセンシティブ(Supersensitive) 低価格と耐久性に富むこの弦は学校でよく使用されています。
以上の説明は、あなたが弦を選ぶときの役にきっと立つと思います。しかし、楽器と弦は相性がありますので、
弦を選ぶ一番いい方法は、いろいろなブランドと太さの弦を実際に試してみるということ以外にはないというこ
とを強調しておきたいと思います。
弦はだいたい6ヵ月ごとに交換することをおすすめします。それを越えると、音色の輝かしさは消え、立ち上
がりが悪くなってきます。音色が悪くなるのは徐々にですから、ほとんどの人はそれに気がつきません。
弦を交換するときは一本ずつ行ないます。すなわち、1本だけゆるめてはずし、ほかの弦はそのままにしてお
きます。弦を取り付ける前に、弦があたる駒の溝(groove of bridge)や糸枕(nut)などを柔らかい鉛筆で書
いておきます。鉛筆の芯(グラファイト)は優れた潤滑材となり、断線を予防します。弦のピッチを上げ過ぎ
ないように注意します。上げ過ぎると、弦が弱くなり、早期断線の原因となります。弦は糸巻(peg)の中央
から端に向かって順序良く巻かれねばなりません。しかし、端で積み重なって堅くなってしまうのもよくあり
ません。
糸巻(peg)、糸枕(nut)、駒(bridge)、緒止め(tailpiece)は楽器の中で大切な部品です。弦が糸枕と駒の
溝にきちんとはまっているかどうか確認します。溝が深すぎたり角ができていると、弦が切れやすくなります。
楽器や弓の手入れに関しては楽器の手入れ方法を参照して下さい。