弦楽器の手入れ方法

原典:Ifsin Violins - Instrument Care

訳 1997年6月25日


いい弦楽器は何百年でも使用できるように作られています。 1600年代初頭 につくられて、なお現在プロ演奏家に使用され続けている楽器がたくさんあります。 同時に、使用者の不注意などによって短い寿命に終わる楽器も少なくありません。 アントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari)は、約1、200台の楽器を作りましたが、 現存するのはそのうち600台位です。あなたの楽器や弓を最良の状態に保つために、 本手引きが役に立つことでしょう。

クリーニング

練習や演奏が終わったら必ず、柔らかいきれいな布で楽器と弦をふきましょう。
これは、松脂が楽器にこびりついてとれなくなってしまうのを防ぎます。演奏中にでも 楽器についた松脂はたえずふき去ることが必要です。これだけで、クリーナーやつやだし剤 を使用しなくてすむようになります。つやだし剤をもし使用する場合は、ヒル( Hill)や スーパーセンシティブ(Supersensitive)ブランドのバイオリン用に作られたものを使用しましょう。 家具用のつやだしはニスによくない油を含んでいるおそれがあるので絶対に使用してはなりません。 もし、松脂やホコリが固まってしまった場合には除去をバイオリン専門店に依頼してください。

破損から守る

楽器や弓を破損から守る唯一の方法はそれをケースに入れておくことです。いすの上におきっぱな しにしてあったときとか、肩当てを付けたままテーブルの上のふたの開いたケースの中においたと きとか、譜面台に引っかけておいたときなどがこわす頻度が高いのです。まわりで何がおこってい るか、絶えず注意を払っていましょう。譜面台が倒れてきて表板に当たったときは重大な事故とな ります。柔らかいマツ(spruce)材の表板の場合はなおさらです。カエデの裏板よりも端の部分は 容易に欠けてしまいます。

楽器に塗ってあるニスは、白木の材料の色を美しく変えるだけでなく、もっと重要な役割を果たしま す。それは表面の保護をするとともに音色を作り出します。もし、何らかの理由でニスがはげた部分 が生じたら、専門店で補修してもらってください。
楽器を過度の温度や湿度にさらさないことが大切です。直射日光や冷暖房の風に直接当ててはなりませ ん。車のトランクや、人のいない車内に放置してはなりません。熱はニスを傷め、ひび割れをもたらします。

 ひび割れは、衝撃や熱の影響により、マツの表板で特に発生しやすいものです。もし発生したら、 できるだけ早く修理しましょう。放置しておくとひどくなり、直しにくくなってしまいます。

ハードケースは楽器を守るための必需品です。ソフトケースに入れていたために破損した楽器を数多く見てきました。

駒(Bridge)

駒(bridge)は表板にぴったりあわせてたっているように、また弦の高さが指板から適正な位置にあるよう に、個々の楽器にあわせて調整して取り付けられています。正しい位置にまっすぐ立てられていることが、 最良の音を出すために重要なことです。時間が経つと、調弦のたびにひっぱられるため、駒は指板 (fingerboard)の方に傾いてきます。もしこういう状態を放置しておくと、駒は反ってしまい、最後には使い物にな らなくなってしまいます。時々横から見て傾いていないかチェックしましょう。もし傾いてきたら、駒の上部を両 手の親指と人差し指ではさみ、慎重に傾きを直します。(チェロの場合は若干弦をゆるめた方が動かしやすいでしょ う)。横から見て緒止め(tailpiece)側の駒の面(駒の裏)が表板と垂直になっているのが正しい角度です。指板側 の面(駒の表)は若干斜めになっています。もし駒をはずす場合は、弦をゆるめる前に緒止めの下に柔らかい布をひいておいて、表板に傷をつけないようにしましょう。駒は左右のエフ孔(f-holes)の内側の切り欠きから等距離の位置におきます。よく手入れされた駒はいつまででも使用できます。もし交換する場合は、専門店に依頼してください。

糸巻き(Pegs)

よく調整された糸巻きは、音合わせがしやすく、滑ったり、固くなったりしません。もしまわしにくくなってしま ったときは、潤滑材(peg dope)(ヒル(Hill)ブランドがおすすめです)を糸巻きが当たる部分にさします。もし、すべってしまって、どうしても止まらなくなってしまったときは、糸巻きが穴に合わなくなってしまったので、糸巻きを交換する必要があります。

異音、雑音など.

雑音がしたり、音量が下がったり、音色が変わってしまったりしたときに考えられることは、膠(にかわ)のはがれです。バイオリンはすべて膠(にかわ)で接着されています。これの一部がはがれてしまったときは、専門家に修理を依頼してください。雑音の原因としては他に、アジャスタのゆるみや装身具などの金属が楽器に接触したとき、及び指板のへこみやそりが考えられます。指板の場合はけずりなおすなどの修理が必要です。また内部の力板(bass bar)などがゆるんだといったこともまれにありますが、この場合は表板を外して直すなどの修理が必要です。

魂柱(Soundpost)

魂柱(soundpost)はバイオリンでいうと、駒のE線側の足の下の表板と裏板の間に立っている丸い木の棒です。それが立っている位置は楽器の音色と音量に大きく影響を与えます。その調整は専門家に任せる必要があります。もし魂柱が倒れてしまった場合は弦をすぐに全部ゆるめておきましょう。そして専門店で立て直してもらいます。

弦(Strings)

できる限り優れた弦を使用しましょう。安価な弦はストラディバリでさえひどい音にしてしまいます。 弦は、たとえきれてしまわなくても6ヶ月位使用したら音色が衰えますので、交換しましょう。交換の際は、全部同時にゆるめずに、1本ずつはずしては交換するというふうにします。より詳細については 弦の選びかたを参照してください。.

弓(Bow)

楽器本体と同様、弓はこわれやすいので、正しく取り扱わねばなりません。最も重要なことは使用しないときは弓をゆるめておきことです。ゆるめる度合いは毛が弓に当たる程度です。また、弓をはりすぎないことも重要です。弾いたとき毛が弓に接触しない程度にすればよいのです。弓のはりすぎにより弓のそりがだんだんなくなってきて、ついには使用できなくなることもあります。 

もし、毎日楽器を弾くのであれば、弓の毛は6ヶ月から8ヶ月位で張り替えることが必要です。古くなると弓の毛は延びてしまって正しく張ることができなくなってきます。それを無理に張ろうとすると、ネジの部分を破損することがあります。また、すべるようになってきたり、松脂をたくさんつけるようになったり、毛の脇の方で 弾くようになったときには毛替えが必要な時期にきている現れです。

弓の取り扱いにも注意しましょう。譜面台に引っかけておくと、落ちたとき、弓先を破損しやすいのです。 修理はできますが、弓の価値は大きく下がり、また再び壊れやすくなります。

楽器同様、弓も直射日光や急激な温度変化を避けましょう。


あなたの楽器を専門家以外の誰にも修理させたり、調整させたりしないでください。 また弦楽器以外の楽器を修理する技術者にも依頼してはなりません。正しくトレーニング をつんだ経験のある専門家にのみ依頼してください。 .

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