最近新作楽器が注目を浴びています。多分よりよいものがつくられるようになったからでしょうか。またオールド楽器の数より演奏家がふえたからでしょうか。またオールドの値段が上がりすぎたからでしょうか。理由はともかく、有名な演奏家も新作楽器の価値を認め、使用しています。
世に認められることにより、バイオリン製作者はますます優れた楽器を作るようになります。多くの製作者はオールド楽器の修理や調整を行ってきています。こういった経験をいかして、新作楽器は音色と外観により優れた長所を持たせることができるのです。
いかなるオールド楽器も、新作楽器よりいいのだ、という常識は間違いです。よくこういう人がいます。”私はすでに新作バイオリンを1台持っている。”(そして同様に)”そしてよりよいバイオリンを探している。”(それはオールド。)イタリアンならどれでもそうでないものよりいい楽器であると信じている人がいます。これは新作楽器については正しくないのです。今や世界中にバイオリン製作者はいるのです。たしかに優れたオールド楽器は新作よりも優秀です。もしも高価なオールド楽器をステータスとして持つことがキャリアをのばすことになるのでなければ、新作を検討することも必要です。新作楽器はあなたの捜し求めている音色と演奏のしやすさを備えています。
新作楽器は現代の演奏家が現代のホールで演奏されることを前提にしています。よりクリアで応答が速く低音の充実した音色を好むなら、そういった楽器を得ることができます。演奏家と製作者がいっしょに新しい音を創造していくことが可能です。
楽器を探すために、音楽の歴史まで変える必要はありませんが、いくつか考慮すべき理由はあります。いくつかの要因をお話することにより、あなた自身が決定を下す助力となるようにしたいと思います。
新しい楽器を見たとき、それを3つのカテゴリに分けることができます。それは、コピー、モデル、オリジナルの3つです。コピーとは特定のオールド楽器(たとえばストラディバリの”メシアン”)そっくりにつくられたものです。コピーにはひっかき傷や汚れ、色褪せ、ひび割れまでオールドそっくりにつけられます。寸法もそっくりそのまま同じにします。コピーのなかには”にせもの”として販売されるものもあります。しかし、製作者はコピーを技術を会得するための過程として作ります。演奏家はまったく新作の外観の楽器では見た目に恥ずかしいため、またオールドの外観がすきなので、またはかつて持っていた楽器と同じ外観を望むために、コピーを注文します。
モデルというのは、特定の楽器の形をならってつくられた楽器をいいます。ストラディバリ・モデルといえば、ストラディバリの外観をならいf孔もスクロールも同じ形にします。寸法は必ずしも同じとは限りません。ストラディバリの作り方にしたがって作る人もいれば、外観を基本にして独自の工夫をする人もいます。このような楽器は、”ストラディバリの主題による変奏曲”といった独自の楽器になるのです。
オリジナルというのは、まったく独自の新しいデザインによるものです。外観もf孔もスクロールも独特の形となります。多くの製作者は彼らの先生からデザインを見習うことから始めます。経験が高まってくると、独自のデザインで作るようになります。たとえば、ストラディバリは、ニコロ・アマティのモデルをベースに始めました。(アマティ時代と呼ばれています。)後に、音響的な理由からより幅広の楽器を作るようになりました。同時に表板と裏板のカーブを引き締めました。このころのモデルはアマティのとはちがう彼独自のモデルとなっています。この変化は徐々にであって、いつからと線をひくことはできませんが。
楽器を探すとき考慮することは、真贋(authenticity),状態(condition),音色(sound quality),そして外観(appearance)です。最初の2つは、いつも悩まされることで、いろいろな意見があります。バイオリンディーラーは客が悩むのを眺めるだけですから、探す当人は途方に暮れます。
オールドと新作の最大の違いは真贋と状態でしょう。多くの人にとって新しい楽器を注文する体験は格別なものがあります。
音色もまた大きな要素ですが、それを見分ける準備は少しで充分です。さがす時間とお金を費やす前に、友人、先生、知り合いなどの持つ楽器を全部弾いておきましょう。それも1台代につき、数時間かけていい音が出せるまで弾いてみます。いろいろな弓速、圧力、弓位置ですべての弦をあらゆるポジションで弾いてみます。それらの楽器の持ち主にどんな点を注意しているかを聞いておきます。そして、目と耳をよく開いて、何がよくて何が悪いか、どんな楽器があっているのかがわかるようにしておきます。こうしておいて自分自身の楽器を探しはじめるのです。
これからの話は新作、オールドいずれにも関係することです。よくうける質問ですが、新しい楽器は音色がどんどんよくなっていくのか、ということです。若い枝はよく撓(しな)い、枯れた枝は折れる、ということは誰しもが知っていることです。木は切られた後、ずっと枯れつづけます。しなやかな木より枯た木の振動のほうが高調波を充分に含んでいます。そのぶん豊かで明るく聞こえます。これが、時間がたつにしたがって音色の変わる理由です。いい楽器は枯れるに従って音色が変わります。しかしそれは最初からよく鳴る楽器についていえることです。最初から鳴らない楽器はよくなる処か悪くなります。
楽器には適切なふくらみと傾きが必要です。薄すぎる板厚の楽器はやがて枯れすぎて自由に振動しすぎるようになります。また重過ぎる楽器も注意が必要です。また高い方の弦だけがよく鳴る楽器も注意してください。低い方の弦は、より楽器の柔軟性を必要とし、また最初に変化の影響を受けやすいのです。
新作シンドロームの原因となる要素として、他には不適切なニスの適用があります。厚く塗りすぎたり、木に染み込みすぎたりしないような注意が必要です。こういったものは、表面が汚れた感じがしたり、ぶつぶつした感じになってしまいます。こういった楽器は、ニスが固くならないうち間だけよく響きます。この問題を避けるためには、製作者はニスの材質をよく知り、寿命や、音色に及ぼす影響をよく知っておかねばなりません。
もし、特定の製作者の楽器を考えているのであれば、彼のつくった楽器が入手できるのであれば弾いてみることです。そしてどのような音が出せるかをできるだけ試みる必要があります。そしてその持ち主に弾き方とか変更したところを聞き出します。また、その製作者のところへ行ける範囲かどうかも重要です。新しい楽器は新しい車と同様最初の1年くらいは余分に調整が必要です。ビビリやテンション不足を落ち着かせるには、魂柱の位置調整や、ネックの角度調整などが必要となります。1年目は何回か製作者のところに通う必要があるでしょう。そのままこういった問題を放置しておくと、音色は悪くなり、試作シンドロームに陥りやすいのです。
あなたの選んだ製作者はセットアップや調整ができるでしょうか。駒や魂柱の調整ができますか。製作者は自分のつくった楽器が最良の状態を保つようにどこまでも責任を持つでしょう。もしあまりにも遠く離れているのでなければ、製作者のところに行くべきです。製作者は、自分の作った楽器の情報を知りたいし、どのように変化していくかを見守りたいのです。
他の製作者の新しい楽器を調整して欲しいと持ち込む方がよくいらっしゃいます。彼はいいます。いい製作者なんだが、ちっとも調整してくれないんだ。演奏家も製作者も誇りをもっています。製作者も芸術家であって、単なる技術者ではないと思っています。われわれに言わしていただければ、この製作者は楽器が如何に働くかを理解していないのではないかと思われます。楽器は、絵のように単に眺めるものではなく、正確に働く必要があります。如何にそれが働き、また働かせるかを理解することが大切です。製作者の芸術性は作品に投入した個性や特性の質や量できまり、如何に正確にそっくりにコピーを作ったかなどできまるものではありません。
最近まで、演奏家はいかにも新しく見える楽器を使うことを避けてきました。しかし、その傾向は急速に薄らいできています。ストラディバリや、アマティやガルネリの楽器もかつては新作でした。確かにこういった楽器は風格を備えています。アンティークのようでもありません。新作が風采がよく見えない理由は新しいからではなく、楽器に与えられた品性とニスの魅力にかけるのではないでしょうか。それは新作にも可能なことなのです。
ところで聞いている人はオールドと新作を聴き分けられないという話は知られています。もっともよい楽器は高い価格や逸品ということではなく、いい音色と取り扱いの良さできまるのです。 もし今度楽器を探すときにはこのことをよく念頭に置いて選んでください。